書誌情報
・著 者:松川二郎・復刻編集:渡辺 豪
・発 行:カストリ出版
・仕 様:B6 / 全811ページ(上下二分冊) / 並製 / 口絵カラー・本文モノクロ / カバー
芸者は身体を売っていた
当著の最も見逃せない点は、当時の芸者の職業的性格をリアルに記録。現在、芸者の職業的性格を喩えたものとして、しばしば耳にする言葉に「芸者は芸は売っても身体は売らない」というものがある。しかしながら、著者松川は、全国殆どの花街に於いて、芸者の売春価格を記載。同時代の芸者を取り扱った多くの作品にも、芸者が実質的な娼婦であるとして描かれており、芸者が実質的な娼婦的役割を担っていたことは、当時としては暗黙の了解だった。800ページ、全国180ヶ所超の大著 花街・遊廓・私娼窟の情報も記載
当著は芸妓中心のいわゆる花街のみにテーマを絞って取り上げた文献と思われがちだが、同時並行的に遊廓の情報も掲載。それまで芸娼混在型の紅灯街が多かったものの、明治33年に発布された「芸娼妓取締規則」によって、遊廓(貸座敷免許地)の空間的な囲い込みが規定され、当著が刊行された当時は、芸妓中心の花街と娼妓中心の遊廓との分離政策が完成しつつあったが、藝妓も娼妓も元を辿れば、商圏を同じくする同業他社あるいは関係会社のような関係で、著者松川も花街をテーマとしながら、遊廓も花街の一部として記載し、当著では花街の案内と並行的に、近在の遊廓も紹介。 収録地点は以下。赤字は、遊廓、娼妓主体の花街、不見転芸者の多く居る花街、私娼窟など。
ーーーーーー東北地方ーーーーーー
宮城県|仙台・仙台小田原遊廓・仙台ゴケ町私娼窟・石ノ巻・気仙沼・鳴子温泉青森県|八戸・八戸小中野遊廓・弘前・弘前北横町遊廓
岩手県|花巻温泉
山形県|山形・山形小姓町・湯田川・湯野浜・酒田・酒田新地
秋田県|秋田・横手・横手馬喰町遊廓・角館・角館西勝楽町遊廓・秋田・秋田常盤町遊廓・土崎・土崎稲荷町私娼窟・能代・能代新柳町私娼窟
福島県|東山温泉
ーーーーーー東 京ーーーーーー
東京都|新橋・柳橋・浜町・芳町・日本橋・赤坂・池之端・浅草・神楽坂・富士見町・四谷荒木町・四谷大木戸・麻布・白山・駒込神明町・湯島天神・講武所・烏森・新富町・霊岸島・深川・向島・吉原遊廓・洲崎遊廓・新宿遊廓・品川・五反田・目黒・渋谷・玉川・二子神明町・調布・玉の井私娼窟・青梅・八王子・田町遊廓
ーーーーーー関東地方ーーーーーー
埼玉県|松山・浦和・中野原新開地・大宮・秩父・原谷村遊廓千葉県|木更津・鴨川・松岸遊廓・潮来遊廓
茨城県|水戸・下市第一料理店組合・下館
栃木県|宇都宮・剣の宮私娼窟・河原町遊廓・足尾・足尾ダルマ屋地帯・大田原遊廓
群馬県|伊香保・伊香保湯女・下仁田・下仁田乙種料理店・磯部・妙義
山梨県|甲府・穴切遊廓・下諏訪・御田町遊廓
ーーーーーー中部地方ーーーーーー
新潟県|高田・栄町遊廓・柏崎・新花町遊廓・三条・三条遊廓・新潟・新潟十四番丁遊廓・常盤町遊廓・脱奔小路長野県|木曽福島
富山県|富山・富山東遊廓・高岡・高岡羽衣新地・高岡和田・高岡郊外大門・滑川・常盤遊廓・魚津・魚津旭新地・小川温泉・神田新地
石川県|山中温泉・山中(シシ)・片山津温泉・片山津(カモ)
静岡県|浜松・浜松二葉遊廓・静岡・静岡二丁町遊廓・伊東温泉
愛知県|名古屋・中村遊廓・犬山・岡崎・岡崎東遊廓 岐阜県|岐阜・金津遊廓
ーーーーーー近畿地方ーーーーーー
三重県|宇治山田・古市遊廓・新古市大阪府|南地五街・曽根崎・新町・堀江・松島遊廓・飛田遊廓・住吉
京都府|祇園・祇園乙部・先斗町・木屋町・下河原・宮川町・島原遊廓・五条新地・新京極ポン屋
奈良県|奈良・宇治・木辻遊廓
ーーーーーー中国・四国地方ーーーーーー
広島県|広島・広島西遊廓・広島東遊廓・宮島鳥取県|鳥取・鳥取瓦町遊廓・美保関
島根県|松江・松江新町遊廓
愛媛県|松山・道後温泉・松が枝遊廓
ーーーーーー九州地方ーーーーーー
福岡県|博多・博多新柳町遊廓熊本県|熊本・熊本二本木遊廓
大分県|中津・耶馬溪・別府・別府濱脇遊廓・大分・大分菡萏遊廓・下之江遊廓・佐伯・日田
宮崎県|延岡・延岡麥原遊廓
長崎県|長崎・長崎丸山遊廓
図版300点を収録
復刻に際しては、原著に収録されている図版(街景、芸者ブロマイド、地図等)も再収録。収録されている写真は街景なども当地の雰囲気の伝わる質の高い写真ばかり。松川の写真収集力・セレクト力の高さが伝わる。組版も原著通り
現代語(現代仮名遣い、新字体)に直すことなく、敢えて旧字体・異体字、歴史的仮名遣いのままとしました。松川の筆による豊饒な記録が甦る。有用な附録記事
今回、本編の『全国花街めぐり』に加えて、松川が遺した貴重な原稿も3点収集し、収録しました。それぞれ以下。附録記事1 『後篇 全国花街めぐり』
当著『全国花街めぐり』は、750ページ・35万字という圧倒的なボリュームにも関わらず、前篇に過ぎない。松川は当著あとがきにて前篇を上回る規模の後篇執筆を予告。『後篇 全国花街めぐり』は、その予告編。予告編とはいえ、14ページ・3箇所の花街を紹介した読み応えのあるもの。(花街は三重県松阪市、京都府京都市伏見区中書島、福島県郡山市<赤木町遊廓含む>を収録)附録記事2 『諸国花街風景座談会』
戦前の郷土風俗史をテーマとした雑誌『郷土風景』(昭和7年)に収録されていた、松川二郎を含む識者による「花街」座談会。座談会出席者は以下の通り、 松川二郎(当著著者)近藤飴ン坊(川柳作家)
氷見德太郎
平山蘆江(都新聞記者)
横山健堂(評論家)
松崎天民(『淪落の女』著者)
野口雨情(作詞家)
谷川要史(『郷土風景』主催者)
全19ページ。なお、当座談会は記録していた速記者が内容のあまりのえげつなさに納品を拒否する事態に陥ったという曰くつきのもの。
附録記事3 『春を売る女の地方色』
雑誌『新小説』(大正15年)に掲載された松川による随筆。13ページ。タイトルの通り、全国に分布する売春婦の特徴を綴ったもの。美保関、平戸田助、鳥羽はしりがね、木の江、筑波、妙義温泉、潮来など全国縦断して相当多岐に渡って紹介。以上、三編はこれまで復刻されことがなかったもので、花街・遊郭を調査する方には大変有用なものです。
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